紹介作品 No_036  【点と線】


紹介No 036

【点と線】1957年2月〜1958年1月 〔旅〕


安田辰郎は、一月一三日の夜、赤坂の割烹料亭「小雪」に一人の客を招待した。客の正体は、某省のある部長である。......◎蔵書◎松本清張全集 1 点と線・時間の習俗(株)文藝春秋●1971/04/20/初版より

内容はくどくど説明するまでもない。

手抜きであるが、引用する。【出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)

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料亭「小雪」の女中二人に、東京駅の13番線で見送られていた機械工具商会を経営する安田辰郎。
三人は、向かいの15番線に同じく「小雪」で働くお時が男と夜行特急列車「あさかぜ」に乗り込むところを
見つける。だが数日後、お時とその男・佐山は、香椎の海岸で死体となって発見された。

一見ありふれた情死に見えたが、博多のベテラン刑事・鳥飼重太郎は、佐山が持っていた車内食堂の
伝票から事件の裏の真相を探るため、一人捜査をすることにする。

一方、佐山は現在社会をにぎわしている××省の汚職事件の関係者であった。
この事件を追っていた本庁の刑事・三原紀一は、心中事件を追って九州へ向かい、鳥飼と出会う。

捜査の結果二人は、東京駅で13番線から15番線が見えるのは、1日の中でわずか4分しかないことを
突き止め、安田を容疑者として追及しようとする。だが、安田には完璧なアリバイがあった。
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すべては東京駅15番線ホームから始まる。

テーマは
「偶然と作為」

そして
今でも続く「汚職事件」の展開、それは

>「石田部長も笑っている一人ですか」
>三原が言った
「一番大笑いしているに違いないね。何しろ課長補佐というのは義理人情家とみえて、
一省の危急存亡を背負ったつもりでよく死んでくれる。
大きな汚職事件で自殺するものは、必ず課長補佐クラスだ」

毎度おなじみの展開である。

輸入米の入札をめぐる汚職事件で、収賄の疑いで逮捕された農林水産省の元課長補佐は、
別の業者から接待を受けていたことが発覚した直後、贈賄側の業者が肩代わりしていた海外旅行の代金
を返していたことがわかり、警察は元
課長補佐が旅行代金がわいろにあたると認識していたとみて
調べています。(10月8日 /NHKニュース)




さすがに清張代表作。

時刻表を駆使したトリック。舞台は、九州、北海道、青森そして東京

そして喫茶店(なぜか名前が?)

名コンビの刑事(鳥飼、三原/
時間の習俗で再登場)

汽車と飛行機。二つの旅館(福岡=丹波屋・札幌=丸惣旅館)

汚職事件、官僚組織、警察官僚、男と女、夫婦、妻と愛人


仕掛けはすべて揃っている。最後は二人の刑事の手紙で事件の真相が語られている。

「社会派推理小説」の夜明けである。

清張自身は単行本の後書きで、「謎解きにウエートを置きすぎた」ことを少し後悔しているようだ。



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以前から重箱の隅をつつくように、全登場人物、全登場場所を挙げてみるのもおもしろいのでは
と考えていました。
今回「点と線」で全登場人物を試みました。
小説の流れが読み取れるでしょうか?
※一応、全登場人物を挙げたつもりです。ただ会話の中に登場するだけの人物もあったり
  一応と言うことでお許し下さい。
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安田辰郎(安田機械工具商会社長。)

八重子(料亭「小雪」の女中)

かね子(料亭「小雪」の女中)

お時さん(料亭「小雪」の女中)

とみ子(赤坂の料亭「小雪」の座敷女中。お時さんの同僚)

労働者(名島にある工場へ通勤。死体発見)

老巡査(駐在所)

刑事部長(福岡署)ほか2名(刑事)

監察医(福岡署)

鑑識係(福岡署)

鳥飼重太郎(福岡署の刑事)

佐山憲一(
××課長補佐

とき(お時さん)

菅原泰造(佐山憲一の偽名)

若い刑事

番頭(丹波屋)

女房(鳥飼重太郎の妻)

娘(すみ子。鳥飼重太郎の娘)

新田(鳥飼重太郎の娘の婚約者)

実兄(佐山憲一の兄。銀行支店長)

実母(お時さんの母。60歳ばかりの老婆)

桑山秀子(お時さんの本名)

小雪のおかみさん(とみ子をお時さんの遺体の引き取りに行かせる)

果物屋の店主(四十ばかり)

果物屋の客(若い男。博多の会社に通勤している) 「
そうですな。わりあい澄んだ女の声でしたよ。...」

西鉄香椎駅駅長(肥えた赭ら顔)

西鉄香椎駅改札の係(若い駅員)

三人(改札の係があげた名前/和白の男・新宮の男・福間の乗客、男)

部長(福岡署)

三原紀一(警視庁捜査二課、警部補。がっしりとした体格、血色のいい童顔、濃い眉毛まるっこい目)

喫茶店の女の子

喫茶店の常連客

笠井警部(警視庁捜査二課、主任警部)

東京駅助役(三原紀一の聞き込み相手)

家内(鎌倉にいる安田辰郎の妻)

ばあや(安田辰郎の妻の世話をしている)

石田芳男(
××××部の部長)

安田亮子(安田辰郎の妻。鎌倉で肺結核療養中)

老婢(ばあや。安田辰郎の妻の世話をしている。60歳くらい)

長谷川先生(安田亮子の掛かり付け医。大仏前の開業医)

急行「十和田」の乗客二人(三原紀一の北海道へ捜査の旅で出会う東北弁の客。男女は不明)

急行「十和田」の車掌

河西(双葉商会営業主任。五十ばかりの頭の禿げあがった男)

課長(警視庁捜査二課。三原紀一らの捜査に反対?。後に熱心になる)

刑事部長(札幌中央署)

係女中(札幌丸惣旅館)

公安官(札幌駅の鉄道公安官。中年)

係員(函館駅の係。若い男)

車掌(都電の車掌)

佐々木喜太郎(
××省事務官)

稲村勝三(北海道庁の役人)

旅客係(日航の旅客係)

検事

若い女(三原紀一行きつけの喫茶店で相席なる)

若い男(若い女と待ち合わせ、遅れてきた男。三原紀一行きつけの喫茶店)

助役(上野車掌区)

梶谷(上野車掌区勤務。「十和田」号に乗務する車掌。三十そこそこ、いかにも気のききそうな顔)

「十和田」の乗客上役、下役(上役=石田芳男。下役=佐々木喜太郎)

レインコートを着た若い女(日比谷の喫茶店)

運転手(安田亮子を湯河原まで乗せたハイヤーの運転手)

菅原雪子(お時さん=桑山秀子)


全登場場所は別の機会にしましょう...。

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※蛇足1.
発見、「ノコノシマ」(Pは、全集1の出典ページ)。残の島(P12)、能古島(P26地図)。
印刷ミス?。大発見...のつもりでした。実在は「能古島」です。が、
謂われは、皇后が住吉大明神の神霊を残して祈願したので「残の島」らしい。
どうやら昔は「残の島」と言っていたようです。
清張は、わざわざ「残の島」にしたのだろうか?


※蛇足2.
清張批判本
「名探偵松本清張氏」の著者、斉藤道一氏は同書で四分間のトリックを辛らつに批判している。
東京駅のホームでの目撃を、あまりに偶然すぎる出来事で、「トリックとしてはペケ」としている。

確かにかなりの「偶然の作為」がある。その作為が可能な作為か?である。斉藤道一氏は不可能に近い作為として
批判されているが、偶然の「四分間」を読者を唸らせる場面に仕立てた、清張氏の勝ちだろう。
「点と線」は、トリックについてはかなり批判がある。その点については
「松本清張を読む」細谷正充著に賛同する。
不可能に近い作為も、読者に可能と思わせるのが「小説」なのである。
そして、雑誌「旅」に連載されたことから考えても、その役割は十分すぎるほど果たしている。
「点と線」は、斉藤道一氏の批判によっても、いささかも色あせないのである。

※蛇足のおまけ.
果物屋の客(若い男。博多の会社に通勤している)
>「そうですな。わりあい澄んだ女の声でしたよ。...」

若い男にしては、「
そうです」のせりふが気になった。



2007年10月18日 記

登場人物

安田 辰郎 安田機械工具商会社長。
お時さん 料亭「小雪」の女中。安田辰郎の愛人、妻亮子公認?。本名桑山秀子
桑山 秀子 料亭「小雪」の女中。お時さんの本名
かね子 料亭「小雪」の女中
八重子 料亭「小雪」の女中。15番線ホームの目撃者
とみ子 料亭「小雪」の座敷女中。15番線ホームの目撃者。お時の遺体を引き取りに行く。
佐山 憲一 ××省の汚職事件の関係者。課長補佐
鳥飼 重太郎 福岡署のベテラン刑事
菅原 泰造 佐山憲一、旅館で使う偽名
菅原 雪子 お時さん。旅館で使う偽名
三原 紀一 本庁の刑事。警部補
笠井警部 主任警部
石田 芳男 ××省の部長  
安田 亮子 安田辰郎の妻
長谷川 大仏前の開業医。安田亮子の主治医
河西 双葉商会営業主任。五十ばかりの頭の禿げあがった男
稲村 勝三 北海道庁の役人
佐々木 喜太郎 ××省の事務官
鳥飼 すみ子 鳥飼重太郎の娘。婚約者がいる
佐山憲一の兄 佐山憲一の実兄。佐山憲一の遺体を引き取りに行く。銀行支店長
老婢 安田亮子のお付きばあや。60歳の老婆?  (老婢=年とった下女。)
梶谷 「十和田」号に乗務する車掌。三十そこそこ、いかにも気のききそうな顔

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