紹介No 030
【張込み】1955年12月 〔小説新潮〕
清張代表作の一つである。
半世紀以上前の作品である。
東京の目黒で強盗殺人事件。共犯の山田が職務質問で捕まり、共犯の石井久一が追われる。
自殺願望の犯人が昔の女に会いに行くのではないかと考える。
二人の刑事「柚木・下岡」が犯人を追って、山口、九州へ向かう。
山口の小郡、で下岡が降りる。小郡は犯人の石井の故郷である。
柚木は、九州S市へ、石井の昔の女の嫁ぎ先である。
二人の「旅」は、時代を感じさせる。
女の家の斜め向かいの旅館「肥前屋」で張込む柚木。
石井は、女のところに現れる。
集金人か物売りらしい、洋服の男。30前後の男。それが、石井久一だった。
いそいそ出かける、横川さだ子。二人の逢瀬は、石井逮捕で終わる。
さて
この作品は語り尽くされている感がある。ど素人の私が特別な感想を持っているわけではないが
重箱の隅をつつくような疑問をひとつ二つ....
その壱、強盗殺人犯の男が昔の女を訪ねて行くが、女は男の現在の状況を知っているのか?
その弐、女は男に会い駅前まで行き、バスで温泉地に二人づれで赴く、女の行動は覚悟の上か?
三年前に分かれた男と行動を共にするにしては、「軽率」な感じである。
平凡な生活、「吝嗇」な夫との生活に飽き飽きしていたのか...
この小説は、張込みの刑事「柚木」の眼を通して語られている。女の言葉は一言も書かれていない。
柚木は、張込みの中で、日常のさだ子を見つめる。
人間柚木の思いは、石井を逮捕後、人知れず女を家庭に戻してやる。
>「石井君は、いま警察まできてもらうことになりました。奥さんはすぐにバスでお宅にお帰りなさい。
>今からだとご主人の帰宅に間に合いますよ」
柚木の結論は
>この女は数時間の生命を燃やしたに過ぎなかった。今晩から、また、猫背の吝嗇な夫と三人の継子と
>の生活の中に戻らなければならない。そして明日からは、そんな情熱がひそんでいようとは思
>われない平凡な顔で、編物器械をいじっているに違いない。
であるが、
その後のさだ子は、柚木の予想通りの生活に戻るのだろうか?
蛇足、S市は佐賀市であろう。
2006年8月04日 記 |
登場人物
|
柚木刑事 |
刑事。石井が立ち廻ると見られる、昔の女の嫁ぎ先「九州」へ向かう |
下岡刑事 |
刑事。石井の故郷山口「小郡」へ向かう |
石井 久一 |
強盗殺人犯。重役宅に押し入り、主人を殺す。山田と共犯。30前後。 |
山田 |
土建業者の飯場にいる土工。石井久一と共謀。殺したのは石井と供述 |
横川 さだ子 |
27,8歳。横川仙太郎の後妻。石井久一の昔の女 |
横川 仙太郎 |
48歳、吝嗇。さだ子の夫。 |
|
|