紹介作品 No_030  【張込み】


紹介No 030

【張込み】1955年12月 〔小説新潮〕


柚木刑事と下岡刑事とは、横浜から下りに乗った。東京駅から乗車しなかったのは、......◎蔵書◎松本清張全集 35 或る「小倉日記」伝・短編1(株)文藝春秋●1972/2/20/初版より

清張代表作の一つである。

半世紀以上前の作品である。

東京の目黒で強盗殺人事件。共犯の山田が職務質問で捕まり、共犯の石井久一が追われる。

自殺願望の犯人が昔の女に会いに行くのではないかと考える。

二人の刑事「柚木・下岡」が犯人を追って、山口、九州へ向かう。

山口の小郡、で下岡が降りる。小郡は犯人の石井の故郷である。

柚木は、九州S市へ、石井の昔の女の嫁ぎ先である。

二人の「旅」は、時代を感じさせる。

女の家の斜め向かいの旅館「肥前屋」で張込む柚木。

石井は、女のところに現れる。

集金人か物売りらしい、洋服の男。30前後の男。それが、石井久一だった。

いそいそ出かける、横川さだ子。二人の逢瀬は、石井逮捕で終わる。

さて

この作品は語り尽くされている感がある。ど素人の私が特別な感想を持っているわけではないが

重箱の隅をつつくような疑問をひとつ二つ....

その壱、強盗殺人犯の男が昔の女を訪ねて行くが、女は男の現在の状況を知っているのか?

その弐、女は男に会い駅前まで行き、バスで温泉地に二人づれで赴く、女の行動は覚悟の上か?

三年前に分かれた男と行動を共にするにしては、「軽率」な感じである。

平凡な生活、「吝嗇」な夫との生活に飽き飽きしていたのか...

この小説は、張込みの刑事「柚木」の眼を通して語られている。女の言葉は一言も書かれていない。

柚木は、張込みの中で、日常のさだ子を見つめる。

人間柚木の思いは、石井を逮捕後、人知れず女を家庭に戻してやる。

>「石井君は、いま警察まできてもらうことになりました。奥さんはすぐにバスでお宅にお帰りなさい。
>今からだとご主人の帰宅に間に合いますよ」


柚木の結論は

>この女は数時間の生命を燃やしたに過ぎなかった。今晩から、また、猫背の吝嗇な夫と三人の継子と
>の生活の中に戻らなければならない。そして明日からは、そんな情熱がひそんでいようとは思

>われない平凡な顔で、編物器械をいじっているに違いない。

であるが、

その後のさだ子は、柚木の予想通りの生活に戻るのだろうか?

蛇足、S市は佐賀市であろう。


2006年8月04日 記

登場人物

柚木刑事 刑事。石井が立ち廻ると見られる、昔の女の嫁ぎ先「九州」へ向かう
下岡刑事 刑事。石井の故郷山口「小郡」へ向かう
石井 久一 強盗殺人犯。重役宅に押し入り、主人を殺す。山田と共犯。30前後。
山田 土建業者の飯場にいる土工。石井久一と共謀。殺したのは石井と供述
横川 さだ子 27,8歳。横川仙太郎の後妻。石井久一の昔の女
横川 仙太郎 48歳、吝嗇。さだ子の夫。

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