紹介作品 No_015  【二冊の同じ本


紹介No 015

【二冊の同じ本】1971年 「週刊朝日カラー別冊[」

話は古書目録のことからはじまる。神田では毎年何回か古書店が共同して開く古本即売会がある。......◎蔵書◎二冊の同じ本 日本推理小説協会編 最新ミステリー選集1〈愛憎編〉(株)光文社 ●1977/09/30(34版)より

「欧州殊にロシアに於ける東洋研究史ウエ・バルトリド著・外務省調査部訳」『東洋研究史』という本が

狂言回しである。

本好きの「私」が、即売会の古書店の出品目録で『東洋研究史』に目を留める。

「私」は同じ本を持っている。その本は塩野氏から貰ったものである。

問題は出品目録にあった「書き込みあり」という活字である。

塩野氏から貰った本にも書き込みがある。

さらに問題なのは、書き込みの仕方である。五,六ページ続くかと思うと、次は十ページ以上は何も

書き込みがない。

「私」は、この本を手に入れる。この二冊は、塩野氏によって書き込みがされた本であった。

塩野泰治の養子である慶太郎から電話で『東洋研究史』を譲って欲しいとの依頼を受ける。

慶太郎に対するある感情から、「私」は即座に断る。

二冊の本に興味をもった私は、古書の出所を探す。

篠村博子が出所である。篠村博子は、塩野泰治の愛人であった。

篠村博子には、二人の関係をネタに、金をせびる、やくざな弟の存在があった。

事件は篠村博子の家で起きる。塩野泰治、篠村博子、博子のやくざな弟、従姉夫婦が居る。

従姉夫婦の亭主は、河合義男である。

事件は、塩野泰治が、金をせびる、やくざな弟を嚇となってアイロンを振り上げ弟の頭に振り下ろす。

弟が死んだのを見て、狼狽する泰治、博子。河合義男が身代わりに罪を引き受ける。

博子は、後に事件を苦に自殺する。出所した河合義男は、塩野泰治の養子になる。

資産家の泰治は河合義男を養子にしなければならなかった。妻の友子には異母兄弟ということにした。

河合義男は塩野慶太郎となったのである。

どんでん返しである。泰治の死後、養子の慶太郎夫婦と残された友子の関係は容易に想像できる。

資産を食いつぶす慶太郎、やがて友子の遺産を狙う。

何も知らないはずの友子は命を狙われる。知らないはずの友子すべてを知っていた。

それは、慶太郎が資産を食いつぶし、友子を狙うことまで知り尽くした上での計画を実行するのである。

亡き夫を脅迫して、夫婦で養子として乗り込んできた慶太郎に友子は報復する。

清張は、「私」の最後の思いを

「義男にはそれで済んでいるが、死んだ者には済まないままに終わっている。」としているが、

私は、その意味を計りかねてる。

2003年10月13日 記

登場人物

塩野泰治は五つ年上。20代でシンガポールの支店にいたころ塩野と知り合う。
塩野 泰治 4年前に死亡。鉱山経営者。東京の西郊外に家を建て夫婦二人ですむ。子供なし。
塩野 友子 塩野泰治の妻。
塩野 慶太郎 本名、河合義男。塩野泰治の養子。篠村博子の従姉の亭主
篠村 博子 8年前に死亡。当時38歳、自殺。塩野泰治の愛人

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