紹介No 015
【二冊の同じ本】1971年
「週刊朝日カラー別冊[」
「欧州殊にロシアに於ける東洋研究史ウエ・バルトリド著・外務省調査部訳」『東洋研究史』という本が
狂言回しである。
本好きの「私」が、即売会の古書店の出品目録で『東洋研究史』に目を留める。
「私」は同じ本を持っている。その本は塩野氏から貰ったものである。
問題は出品目録にあった「書き込みあり」という活字である。
塩野氏から貰った本にも書き込みがある。
さらに問題なのは、書き込みの仕方である。五,六ページ続くかと思うと、次は十ページ以上は何も
書き込みがない。
「私」は、この本を手に入れる。この二冊は、塩野氏によって書き込みがされた本であった。
塩野泰治の養子である慶太郎から電話で『東洋研究史』を譲って欲しいとの依頼を受ける。
慶太郎に対するある感情から、「私」は即座に断る。
二冊の本に興味をもった私は、古書の出所を探す。
篠村博子が出所である。篠村博子は、塩野泰治の愛人であった。
篠村博子には、二人の関係をネタに、金をせびる、やくざな弟の存在があった。
事件は篠村博子の家で起きる。塩野泰治、篠村博子、博子のやくざな弟、従姉夫婦が居る。
従姉夫婦の亭主は、河合義男である。
事件は、塩野泰治が、金をせびる、やくざな弟を嚇となってアイロンを振り上げ弟の頭に振り下ろす。
弟が死んだのを見て、狼狽する泰治、博子。河合義男が身代わりに罪を引き受ける。
博子は、後に事件を苦に自殺する。出所した河合義男は、塩野泰治の養子になる。
資産家の泰治は河合義男を養子にしなければならなかった。妻の友子には異母兄弟ということにした。
河合義男は塩野慶太郎となったのである。
どんでん返しである。泰治の死後、養子の慶太郎夫婦と残された友子の関係は容易に想像できる。
資産を食いつぶす慶太郎、やがて友子の遺産を狙う。
何も知らないはずの友子は命を狙われる。知らないはずの友子すべてを知っていた。
それは、慶太郎が資産を食いつぶし、友子を狙うことまで知り尽くした上での計画を実行するのである。
亡き夫を脅迫して、夫婦で養子として乗り込んできた慶太郎に友子は報復する。
清張は、「私」の最後の思いを
「義男にはそれで済んでいるが、死んだ者には済まないままに終わっている。」としているが、
私は、その意味を計りかねてる。
2003年10月13日 記 |
登場人物
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私 |
塩野泰治は五つ年上。20代でシンガポールの支店にいたころ塩野と知り合う。 |
塩野 泰治 |
4年前に死亡。鉱山経営者。東京の西郊外に家を建て夫婦二人ですむ。子供なし。 |
塩野 友子 |
塩野泰治の妻。 |
塩野 慶太郎 |
本名、河合義男。塩野泰治の養子。篠村博子の従姉の亭主 |
篠村 博子 |
8年前に死亡。当時38歳、自殺。塩野泰治の愛人 |
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