紹介作品 No_014  【怖妻の棺


紹介No 014

【怖妻の棺】1957年 「週刊朝日別冊」

非番なので遅く起きた戸村兵馬は、朝飯とも昼飯ともつかぬ食膳を終わって庭に下りた。秋のおだやかな陽が、うす紅くなった葉の上に溜まっている。......◎蔵書◎松本清張全集 37 装飾評伝・短編3●1973年2月20日(初版)より

大失敗、「棺」を「館」と勘違いしていた。

訂正して再登録です。

時代劇、1時間半のドラマにでもなりそうである。

主人公は戸村兵馬。その友人の、恐妻家の弥右衛門。弥右衛門の妻おとわ、

弥右衛門の囲い女おみよ、植木職人仁兵衛。

恐妻家の弥右衛門が、外泊をする。友人である兵馬の家に、弥右衛門の内から使いが来る。

何かの予感からか、兵馬は、弥右衛門の外泊を酒のせいにして嘘をつき使者を帰らせる。

兵馬が結びつけたといってもいい、おみよが匿われている植木職人仁兵衛の家にゆくと弥右衛門が

死んでいる。取り乱すおみよ、と仁兵衛の妻。仁兵衛は留守である。

いかにも死に場所が悪い。正面切ってあの妻「おとわ」にいえることではない。

しかし、兵馬は弥右衛門宅の「おとわ」に話すことになる。亡骸の引き取りを断るおとわに、

跡目問題を出し、ようやく、引き取りを決断させる。

事態は一変する。弥右衛門の亡骸があるはずの、植木屋の離れに戻った兵馬は「あっ」と声を上げる

香月弥右衛門は蒲団の上に座っているのだ。

死んだはずの弥右衛門、本宅に死を伝えた兵馬、帰宅した仁兵衛が頭を抱える。

生き返った弥右衛門が悪い?「死のう」「こうなった上は仕方がない。死のう」と、弥右衛門が言う。

なぜか弥右衛門が切腹することに落ち着く。このあたりから、仁兵衛の策略が伺える。

弥右衛門の死後を頼まれた兵馬その手筈に奔る。

ある町に来たとき、裸馬に縛られた罪人を見る。

「ここにも何刻か後には死を確実に迎える人間がいる。」兵馬は足をとめて、その行列をじっと見送る。

納棺された弥右衛門は、棺の上から座って首を傾けている頭が見えるだけだった。

すべてが終わった後、兵馬の邸に植木の手入れに来た仁兵衛に兵馬はおみよの行方を聞く。

そして、「弥右衛門はどこにいる?」

「仁兵衛、弥右衛門とおみよはどこで暮らしている?」ときくが、

「何のお話ですかね」と受けつけない。

兵馬の推理が図星であろう。どんでんがえしの連続で都合良すぎる感はあるが、シリアスな問題は別

として、愉しめる作品である。

怖妻から逃れた「弥右衛門」が、何処かで幸せに暮らしているであろう余韻がすがすがしい。

2003年07月07日 記

登場人物

戸村 兵馬 主人公。遊びなれた男。
香月 弥右衛門 戸村兵馬の友人。恐妻家
香月 おとわ 香月弥右衛門の妻。家持ち女。戸村兵馬も日頃から好意を持っていない
おみよ 香月弥右衛門の囲い女。親切で気だてがよい両国の茶屋女
仁兵衛. 植木職人。戸村兵馬の信頼も厚い

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