紹介No 012
【流れの中に】1961年 「小説中央公論」
事件は起きない。主人公笠間宗平の思い出をたどる旅である。
事件は、思い出の中に存在する。でも、その事件は主題ではない。
旅の目的がこの小説の主題である。
「宗平が小さいときに送った土地を訪れてみること」と、書かれているが、主人公笠間宗平も亡父の
晩年の年齢になったことがこの旅の思い立ちになたようだ。
旅のルートを具体的に当てはめようとするが、よくわからない。
最初に降りたのがSという町。瀬戸内海に面している。もっと西の、M町。
M町は瀬戸内海が九州の突端でくくれる地点の近くにある。
この町から二里ばかり離れたところに、天満宮で有名なBの町。
MとBの二つの町の間に、大きな川が流れていた。T町は盆地で、M町から山へ向かって汽車で
1時間で、県庁所在地。そしてO町。
B町の天満宮は防府天満宮だろう。川は佐波川か?。県庁所在地が山の中の盆地なら、
山口県以外考えられない。T町は山口市近辺、O町は小郡?。
さて、この小説は、「主人公の笠間宗平の思い出をたどる旅である。」と書いたが、
なぜ笠間がその旅に出たのか明確にしていない。でも、その気持ちはなんとなく理解できる。
しかし、極貧といってもいい小さい時の記憶は、いまさら思い出したくもないのではないか。
その思い出をたどる旅としても、楽しくないのではなかろうか。
それでも旅を続ける彼の目的は何なのだろう。
貧乏から這い上がれない父。父と叔母の関係。母と叔母。
幼い宗平一家の周りに登場する人物はみんな同じ時代を生きている。
この小説の各場面は、清張作品の中に度々登場する、原点のような気がする。
長編小説の書き出しである。
鮭の鱗と、鱒の鱗の話が妙に印象に残った。
2003年02月20日 記 |
登場人物
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笠間 宗平 |
52歳。 |
笠間宗平の父 |
50歳過ぎに死亡。 |
笠間宗平の母 |
「宗平が子供心にも絶えず恥ずかしくなるほど醜い顔だった」おきくの姉 |
おきく |
笠間宗平の叔母。十五,六で宗平の子守をする。生きていれば七十前後? |
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