書き出し |
今年(一九八七)10月16日から三日間、第九回「世界推理作家会議」がフランス、ドーフィネ地方の首都グルノーブル市で開かれ、わたしは同会議運営委員長(主催者側の同市長)からゲストとして招かれた。年一度のこの定期会議は第八回まではフランス(パリの東邦約一三〇キロ)で行われていたが、本年からはグルノーブル市が開催地に名乗りを上げて決定したという。グルノーブルといえばかつて冬季オリンピック(一九六八)が開かれて名を知られている。また「赤と黒」の作家スタンダールの生地でもある。フランス・アルプス山系のせまい盆地にあり、リヨンと近い。この山峡の町のイメージがまず私の心をとらえ、招請状の応諾のサインをした。運営委員長から送られてきた予定出席者リストを見ると、邦訳が多く日本の読者にもよく知られた欧米の一流推理作家の名をそろえている。ソ連もイタリアも入っている。私は外国の作家が日本の推理小説(本格、ミステリー、いわゆるハードボイルド流などを含め)をよく知っていないことを考え、この会議中の短い講演に日本の推理小説の現状を紹介した。時間の制約で、各作家各作品にふれることができなかったのは残念である。 |