松本清張_人間水域

題名 人間水域
読み ニンゲンスイイキ
原題/改題/副題/備考  
本の題名 人間水域【蔵書No0095】
出版社 (株)角川書店
本のサイズ 文庫(角川文庫)
初版&購入版.年月日 1974/02/20●9版1977/01/20
価格 340
発表雑誌/発表場所 「マイホーム」
作品発表 年月日 1961年(昭和36年)12月号〜1963年(昭和38年)4月号
コードNo 19611200-19630400
書き出し 長村平太郎は湯壺から出た。浴室のガラスの大きな空間がそのまま熱海の風景になっていた。陽は海面から上るので、浴室に朝の光がまぶしいくらいに満ちている。初島が逆光に霞んでいた。平太郎は身体を拭きながら部屋の気配を聞いている。ふみ子が身支度をしているのが見えるようだった。湯は澄明な青さで底を見せている。タイルの筋がいびつに浮かんでいた。平太郎は、半年前までは、ふみ子が自分と最後まで浴室で一緒だったことを思い出した。頭から背中、足と、子供のようにタオルでていねいに拭いてくれたものだ。早く帰ろう、と言いだすのは、平太郎のほうからだったが、今では、ふみ子が一分を争って東京に帰りたい顔つきをする。この変化は、三か月ぐらい前から露骨になっていた。平太郎は胸の中が納まらない。が、正面からそれを言って彼女と喧嘩することもできなかった。争えば、結果ははっきり平太郎の負けと出る。彼はふみ子に逃げられるのがおそろしかった。
作品分類 小説(長編) 474P×480=227520
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