松本清張_歪んだ複写

題名 歪んだ複写
読み ユガンダフクシャ
原題/改題/副題/備考  
本の題名 松本清張全集 11 歪んだ複写・不安な演奏【蔵書No0089】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1972/06/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「小説新潮」
作品発表 年月日 1959年(昭和34年)6月号〜1960年(昭和35年)12月号
コードNo 19590600-19601200
書き出し 十一月の末の、寒い宵であった。六時前だが、完全に夜になっていて、東京の西の繁華街と言われるS地区には、銀座裏と同じくらいに賑やかな灯が輝き、人間の数はもっと多く流れていた。K通りは、近くに劇場や映画館が集まっていて、近所は、キャバレー、バー、ナイトクラブ、料理店といった店が、これも銀座裏と同じようにひしめいている。夜の遊び場であった。無論、広い地域なので殷盛さが平均しているという訳ではなかった。すこし横の通りにそれると、灯の稠密は少なくなり、人の歩きは疎らになる。が、その種類の店は、相変わらず多かった。ひとりの男が、人でも待っているような恰好で、その通りの或る地点に佇んでいた。寒い風のせいか、彼は片脚で貧乏ゆすりをしていた。近くのネオンの光が、男の顔を紅く浮かせるので分かったことだが、彼は三十前後の年齢にみえた。風の油気の無い髪と、古いオーバーの裾が煽られていた。使い過ぎたネクタイも結び目が細くなっているし、靴にも艶がない。要するに、安サラリーマンとしか踏めないのである。
作品分類 小説(長編) 229P×1000=229000
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