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松本清張_史疑 死の枝(第四話)

原題:十二の紐

NO_108

題名 死の枝 第四話 史疑
読み シノエダ ダイ04ワ シギ
原題/改題/副題/備考 ●シリーズ名=死の枝
(原題=十二の紐)

●全11話=全集(11話)
 1.交通事故死亡1名 (1105)
 2.偽狂人の犯罪 (1106)
 3.家紋 (1107)
 4.史疑 (1108)
 5.年下の男 (1109)
 6.古本 (1110)
 7.ペルシアの測天儀 (1111)
 8.不法建築 (1031)
 9.入江の記憶
10.不在宴会
11.土偶
本の題名 松本清張全集 6 球形の荒野・死の枝【蔵書No0047】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/10/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「小説新潮」
作品発表 年月日 1967年(昭和42年)5月号
コードNo 19670400-00000000
書き出し 新井白石の著作「史疑」が現存していると伝えられた最初は、ある新聞社の学芸記者が北陸一帯をほかの取材で歩いて東京に帰ったときだった。この話は、はじめその学芸記者がよく出入りする某大学の助教授のもとに届けられた。その助教授は容易に信じなかったが、だんだん、その記者から話を聞いてみると、まんざら嘘とも思えないようになってきた。所蔵家は、いま福井県の田舎にいるが、元加賀藩の藩儒の子孫だという。名前は宇津原平助といい、もう六十七の老人である。変わり者で、二十年前に家族全部をその家から追い出したあと、今では独り暮らしである。老妻はほかの土地に住んでいる子供たちの世話をうけ、ほとんど親子の往来もないという。家には先祖から伝わる古文書や古記録がおびただしく積んである。宇津原平助という老人は一種の蔵書狂で、その所有の書物を他人に貸さないばかりか、閲覧も許さない。それこそ守銭奴が土中に埋めた壺の金貨をときどきのぞいては愉しむのに似ているというのである。
あらすじ感想 市井の研究家や名人と呼ばれる専門家とか特殊能力を備えている人物が、権威の衣を着て登場する場合がある。
市井に限らず、その道の専門家と呼ばれる人物にも怪しいのが居る。 「剥製

そもそも、新井白石の著作で「史疑」なる書籍があるとは知らなかった。「史疑」と言えば、松本清張と思っていた。とんだ思い違いだった。
古代史疑」が、念頭にあったためだろう。邪馬台国関連の話ではなかった。タイトルの「史疑」は?である。

新井白石の「史擬」が現存していると伝えられた。その話は、ある新聞社の学芸記者によって大学の助教授に持ち込まれてきた。
それは、福井県の田舎、加賀藩藩儒の子孫宇津原平助という老人(六十七歳)で、一種の蔵書マニアらしい。
記者は、平助老人に口止めされていたが、助教授に話した。
助教授は、確かに宇津原平左衛門という藩儒が存在していたことを確認した。
今度は、助教授が記者に口止めをしたのだった。

>近代史学の鼻祖白石の歴史物の中でも白眉と考えられる「史疑」が昭和の現代に存在したものだから、...
「史疑」の存在知り得たことは、助教授にとって絶好のチャンスだった。
助教授の名は、比良直樹(ヒラナオキ)。三十二歳、新進の歴史学者。
(どこの国立大学を卒業し、現在どこの大学講師をしているかはここに書く必要は無い/妙に勿体ぶった書き方だが、この事件ではなるほど...である。)

比良は、宇津原平助に会いに行く。
「史疑」の蔵書を記者に漏らした宇津原平助老人だが、現物を見せようとはしなかった。その拒絶は比良に絶望させるに十分だった。
3時間あまりを平助老人宅で過ごしたが、「史疑」の閲覧はかなわなかった。ただ、老人が見せてくれた古書は「史疑」の存在を確信させるものだった。
すごすごと退散した助教授。バス停に向かう道すがら助教授に悪魔がささやいた。盗み観ることを決意した。
そのための理屈は彼の頭の中では完璧だった。

首尾良く老人宅 の書庫に潜入した比良は、全二十一巻の「史疑」を探した。すぐ見つけ出せると思っていた。が、無かった。
>そのときだった。
>ふいに比良はうしろから老人に抱きつかれたのである。
>老人は、泥棒泥棒、と大声で連呼した。

老人は比良の顔を認めた。
>おや、おまえは昼間きた男だな、と言った。
万事休す。
老人を押し倒し、首を絞めた。呼吸も絶えた。
逃げようとした比良は、昼間老人に渡した名刺を思い出した。昼間老人に会った部屋に行くと、物色するまでもなく机の上にに置かれていた。
名刺を取り戻した比良は少し落ち着くと、強盗に見せるために家中を荒らして逃げ出した。

知性も教養もあるであろう、大学の助教授は、知的興味とその後の名誉の誘惑に、道を踏み外した。

その後の彼の行動は彼の本性なのか、殺人という極限の行動の果ての狂気なのか?
常軌を逸した。
彼は、犯行後最寄りの駅を利用しなかった。近くの町での宿泊も危険だと感じた。
夜道を歩くことにした。来たときと利用した私鉄ではなく、反対方向の美濃の鉄道の駅を目指した。山道の逃亡となった。
前方に提灯の灯が見えた。提灯の持ち主は女だった。二十三,四。警戒させないように声をかけた。
美濃境へ出る道を尋ねた。
(蛇足だが、比良は逃亡する山道を確認するため地図を懐中電燈で見ている/女の持ち物で提灯とは古くさいし、なぜ書き分けたのだろうか?)
女は親戚の不幸の帰りで、明日の早朝に所用があって泊まることが出来なく、夜道を自宅に帰るところと言った。
比良の服装からか、女は比良に無警戒だった。
女の提案で一休みすることになった。田舎娘の比良の足を心配しての事だった。が、
>奇妙な心理が比良に起こった。人を殺した興奮が彼の性的な衝動を誘発したのである。
清張は作品内で、この衝動を外国の例など挙げて、不自然なことではないと説明する。
比良は女の肩に手をかけた。女は予期していたようにさからわなかった。
>へんぴな山村の娘は昔の性的な風習になれていると聞いているので、比良は少しもこの娘に悪いという気がしなかった。
>いや、人殺し以上にどのような罪悪があろう。かれは、いま無人島にこの女と二人きりでいるようなきがして生命を奔騰させた。

>女は彼の名も所もしてってないのである。
見事なまでの殺す側の論理である。比良が宇津原平助宅に「史疑」を盗み入る理窟と同じで、盗む側の理窟である。

忘れたい過去を持つ比良だが、時は忘れさせてくれる。2年の歳月が過ぎた。そして3年が過ぎた。それから2年経った。
宇津原平助が殺されてから7年目。
ある歴史家が「史疑」を読んできたかのような論文を書いた。宇津原平助が所蔵しているとされる「史疑」に一杯食わされたのだ。
比良直樹は、「史疑」の存在を否定した。説得力を持って評価された。

結末は衝撃的である。
ネタバレを避ける。が、比良がたった一回の交渉を持った田舎娘は、それで妊娠していた。


歴史
1923年(大正12年)10月5日 - 越美南線の美濃太田駅と当駅間開通と同時に国有鉄道美濃町駅として開業し、旅客および貨物の取扱を開始する。
1926年(大正15年)7月15日 - 当駅から板取口駅(現 湯の洞温泉口駅)間が延伸開業する。
1954年(昭和29年)11月10日 - 美濃市駅に改称する。
1974年(昭和49年)10月1日 - 貨物の取扱を廃止する。
1986年(昭和61年)12月11日 - 国鉄越美南線の長良川鉄道への転換により同社の駅となる。
2013年(平成25年)12月24日 - 美濃市駅の本屋・プラットホーム及び待合所の2件が登録有形文化財として登録される。




2020年12月21日 記
作品分類 小説(短編/シリーズ) 15P×1000=15000
検索キーワード 加賀藩藩儒・子孫・蔵書・マニア・学芸記者・助教授・歴史学者・田舎娘・不貞・懐中電燈・提灯・美濃.私鉄・駅
登場人物
宇津原 平助 福井県の田舎の加賀藩藩儒宇津原平左衛門の子孫。蔵書マニア。偏屈な老人、67歳。妻子とも全くの疎遠で一人暮らし。新井白石の「史疑」を所蔵?
宇津原 平左衛門 福井県田舎の加賀藩藩儒
比良 直樹 大学の助教授。32歳、新進の歴史学者。新聞社の学芸記者から、新井白石の「史疑の情報を得る、その事がきっかけで転落していく。
田舎娘 比嘉直樹が殺人を犯した後、逃亡の帰路に山道で会う。比良と関係を持つ。たった一回の交渉で妊娠したが、知らずに結婚。悲劇的結果になる。
学芸記者 ある新聞社の学芸記者。新井白石の「史疑」を宇津原平助が所蔵している情報をつかみ、大学の助教授の比良直樹に話す。

史疑