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松本清張_交通事故死者1名 死の枝(第一話)

原題:十二の紐

No_1105

題名 死の枝 第一話 交通事故死亡1名
読み シノエダ ダイ01ワ コウツウジコシボウ1メイ
原題/改題/副題/備考 ●シリーズ名=死の枝
(原題=十二の紐)

●全11話=全集(11話)
 1.交通事故死亡1名 (1105)
 2.偽狂人の犯罪 (1106)
 3.
家紋 (1107)
 4.
史疑 (1108)
 5.
年下の男 (1109)
 6.
古本 (1110)
 7.
ペルシアの測天儀 (1111)
 8.
不法建築 (1031)
 9.
入江の記憶 (1112)
10.
不在宴会 (1113)
11.土偶 (1114)
本の題名 松本清張全集 6 球形の荒野・死の枝【蔵書No0047】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/10/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「小説新潮」
作品発表 年月日 1967年(昭和42年)2月号
コードNo 19670200-00000000
書き出し 東京の西郊外に伸びるI街道という古い街道がある。往昔は、鎌倉に通じた道路だが、今もそのころの面影をいくらか残していて、幅のせまいその道はうねうねと曲がって一筋に西に向かって匍っている。。区画整理からも取り残されているので、舗装にはなっているものの、その原形をよろこぶ趣味家も少なくない。それにI街道の傍には武蔵野の名残があった。樹齢のたったケヤキの林は高々と空に伸び、それが両側だと、昼間でもその道が暗いくらいだった。街道沿いには商家がたちならび、団地も出来ているが、それでも柴垣を結った農家も存在し、雑木林の奥には藁ぶきの屋根がのぞいているのである。その道は一本のままとは限らない。ところどころで二つになったり、三つに岐かれたりしている。その角には必ず道祖神を祀る祠があった。祠の前には花が絶えない。その傍には、字もよく読めないような風化した石の道標が建っている。行先をしるした地名は江戸のころから由緒ぶかい。その方角をのぞくと、そこにもケヤキの立木が道の上に枝を掩いかけている。I街道はそういう道であった。
あらすじ感想 舞台は、I街道。I通りとも言う。今では井の頭通りの方が一般的か。
井の頭通りの描写。
>今もそのころの面影をいくらか残していて、幅のせまいその道はうねうねと曲がって一筋に西に向かって匍っている。
>区画整理からも取り残されているので、舗装にはなっているものの、その原形をよろこぶ趣味家も少なくない。
>それにI街道の傍には武蔵野の名残があった。
今もそのころの面影...と書かれているが、その今とは、1967年(昭和42年)頃のことである。
確かに今も狭いが、当時の面影は感じられない。
地名として、M町・K町が登場するが特定できない。が、今で言えば、K町は小平市、小金井市。M町は、武蔵小金井、武蔵村山市かな?
橋は、喜平橋と推測してみたが、どうだろう?
ただ、清張作品では場所を特定されないよう、意識的に距離とか方向とか実際とは違う設定にされている場合が多々ある。

ここまで書いてきて、疑問が出てきた。I街道とは、五日市街道では...環状8号線以西は、井の頭通りと並行して走っている。
井の頭通りは、私の思い込みかも知れない。

交通事故が起きた。
吉祥寺駅前で拾った客を乗せたタクシー。その前を走っていた大型の白ナンバーの車。二台は2メートルの間隔。(近すぎる感じがする)
場所は、長さ20メートルくらいの橋を越すとK町の入り口となる橋の中央付近。
大型の白ナンバーの車が急ブレーキを掛けた。、タクシーの運転手の
小山田晃(オヤマダアキラ/31歳)は、ブレーキを踏むと同時に左にハンドルを切った。
前の車が右にハンドルを切ったからだ。間に合わなかった。小山田の眼には、絶望の中に、男の逃げ出す姿が映った。
死亡したのは、
吉川昭夫(ヨシカワアキオ/M町の飲食店の店主)
小山田晃、紅玉タクシー株式会社運転手は、業務上過失致死で逮捕された。
タクシーの乗客は、会社員
栗野兼雄(クリノカネオ/27歳)
前を走っていた大型の白ナンバーの車の運転手は、新宿区の電気器具卸商朝日商会社長
浅野二郎(アサノジロウ/36歳)
事故現場に居た女、
池内篤子(イケウチアツコ/24歳/K町在住/新宿の会社の事務員)。
女は死亡した吉川昭夫の女で、橋のたもとで待ち合わせをしていた。
当事者はそれぞれ警察で陳述をするが、当然のごとく、己に有利な陳述になる。さながら『羅生門』である。


探偵役が登場。

紅玉タクシー会社の事故係亀村友二郎(カメムラトモジロウ)。彼の調査が始まる。
全くの蛇足であるが、タクシー会社の事故係で思い出した。渥美清の大フアンである私だが、渥美清主演のテレビドラマ「泣いてたまるか」の
『ラッパの善さん』(1966/04/17放映)。DVDを最近見た。内容は全く関係ない。事故係が共通点と言うだけだが、放映時期と書かれた時期は、ほぼ同じ。蛇足でした。

伏線がある
タクシーの乗客栗野兼雄は、しきりと時間を気にする。運転手に急がせる、
前方を走っている、大型の白ナンバーの車は、タクシーが客を乗せた駅前から500メートルくらい行った交差点から出てきて、ずっと前を走っている。

翌年、亀村は、新聞記事で池内篤子を目にする。
若い女の自殺未遂の記事であった。
>池袋三丁目アパート青葉荘内無職池内篤子さん(25)の部屋で...自殺未遂、狂言自殺らしい...
あの女、新しい恋人でも出来たのか?まさか同姓同名の別人では?
あの自動車事故で、小山田運転手は三年の実刑。死んだ吉川の妻との間で賠償金の訴訟になっている。

亀村は、今一度、池内篤子の住んでいたK町のアパーを訪ねた。管理人は女の自殺未遂は知らなかった。女が池袋方面に引っ越したと言った。
その足で、亀村は池袋署へ行った。自殺未遂の原因を聞くことが出来た。男に仕打ちが冷たくなったので狂言自殺に及んだのだ。
「...男は会社の社長です。」「浅野二郎さんという人ではありませんか? 」亀村の勘が当たった。
警察は、二人は交通事故の現場に居合わせたことでなじみになったと教えてくれた。

島村は、西荻窪駅の南口で、背の高い栗野兼雄をみつけた。彼は栗野の姿を見つけるために、夕方になると、三日間駅前に立っていた。
島村は栗野に声をかけた。「やあ、お忘れでしょう」
駅前の喫茶店に栗野を誘う島村だった。お付き合いの微笑を浮かべながら島村に従う栗野だった。もちろん渋々だった。
コーヒーが来てからの話は、当然事故の話になった。
加害者のタクシー運転手小山田は実刑3年、服役中。不運を嘆く島村に栗野も同意する。
さらに話は、現場に居た女の話になる。
島村は知り得た情報から、女が大型車を運転していた、浅野二郎の愛人になっていること、女が狂言自殺未遂をしたことを話す。
.....おや、あなたは、それをご存じないですか?」
栗野は答えた「知りません。あの人たちとは関係がありませんから」
島村の話は穏やかであるが追及になっていく。(これからはネタバレになるので省略する)

栗野が、タクシーの運転手を急がせた理由の不誠実さと、大型車を運転していた、浅野二郎がK町の橋本電器店へ急用があり急いでいた
とする理由のいいかげんさ喝破する。
実は、当日橋本電器店は定休日だった。と、粟野に告げる。
粟野兼雄は、見る間に真蒼になった。粟野は落ちた。
「定休日」は、島村の作り話だった。

起承転結がはっきりしていて、推理小説としての構成が単純明快でそれなりに面白い。

●事件の舞台(井の頭通り)/吉祥寺駅から喜平橋付近まで





2020年10月21日 記
作品分類 小説(短編/シリーズ) 15P×1000=15000
検索キーワード 交通事故・タクシー・I街道・吉祥寺・橋・大型車・事故係・電気器具卸・狂言自殺・共謀
登場人物
小山田 晃 紅玉タクシーの運転手。31歳。業務中交通死亡事故を起こす。懲役3年の実刑。死亡事故は仕組まれた事故だった。
島村 友二郎 紅玉タクシーの事故係。誠実な調査と経験から仕組まれた事故を突き止める。
浅野 二郎 新宿で電気器具卸商朝日商会を営む。社長。36歳。事故をきっかけに池内篤子と親しくなる。実は昔から愛人関係。大型の白ナンバーの車を運転。
栗野 兼雄 小山田が運転するタクシーの乗客。約束があるとタクシーを急がせる。27歳
池内 篤子 吉川昭夫の愛人であるが、吉川が邪魔な存在になっている。新宿で会社の事務員。24歳。K町在住。浅野二郎の愛人でもある。
吉川 昭夫  池内篤子と愛人関係。M町の飲食店の店主。

交通事故死亡1名