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松本清張_春田氏の講演

No_0019

題名 春田氏の講演
読み ハルタシノコウエン
原題/改題/副題/備考  
本の題名 失踪の果て【蔵書No0185】
出版社 (株)角川書店
本のサイズ 文庫(角川文庫)
初版&購入版.年月日 1987/11/10●再版1987/11/10
価格 340/古本 170(税5%込み)
発表雑誌/発表場所 「週間女性」
作品発表 年月日 1963年(昭和38年)4月10日号
コードNo 19630410-00000000
書き出し 春田令吉は評論家である。近ごろは評論家という名前がやたらとふえたが、春田令吉はもう二十年前から、この名前を頂戴している。彼を呼ぶのに教育評論家というものもあるし、社会評論家というのもいる。雑誌によっては、といっても婦人雑誌が主だが、そのときどきによって肩書きが違ってくる。彼は雑誌や新聞の人生相談欄の担当もしているから、そういう意味では社会評論家かもしれない。しかし、子供のしつけとか、若い学生の、性の問題とかも書くから、教育評論家ともいえる。まあ、両方を合わせた評論家と思えば間違いない。春田令吉は筆も達者だが、むしろ講演のほうが得意である。実際、彼は年じゅう日本各地を回って講演をしている。その集まりは多く婦人層が対象となっている。彼の講演を聴いた人の感想によると、人生の機微をよく心得た話で、たとえば大学教授のような抽象的な高遠なそれと違い、きわめて具体的で合点がいくそうである。
あらすじ感想 講演後、面会に来た羽沢矢須子に合う春田氏。

春田氏の審美眼に合う女の出現に、ある種の期待を抱く春田氏である。

その後の講演会の場所に現れる矢須子。今度は、弟二人と一緒。

春田氏の期待を裏切りながらも、接近してくる矢須子。その目的は刑事の来訪によってすべて明かされる。

春田氏の看板を利用した大泥棒であった3人。

実害のなかった春田氏はのんきなものだ。

しかし、その後の講演会は「まことに味気ないものになってしまった」。

さて、

清張は、発表雑誌、たとえば女性誌・新聞・男性誌などによって、ニーズに答えるべき題材で書いている。

当然ではあるが、特に女性誌では、サービス精神が発揮されている。

「春田氏の講演」も『週刊女性』での書き下ろしのようだ。

私には、そのサービス精神が少し気になる。

教育評論家であり、女性関係を気にする春田氏が、初対面の矢須子を講演後の突然の面会からすぐに

宿まで誘う展開、さらに次なる講演の場所で一方的に宿で待つと電話を入れる矢須子の行動、

短編のせいか展開が急である。

二人で合う場面も、女の特別な目的をまったく疑わない春田氏の能天気が気になる。

全体に緊張感が感じられない、軽い作品である。

清張の評論家「観」が最初の数行に書かれている。(これが言いたかったのか?)

>春田令吉は筆も達者だが、むしろ講演のほうが得意である。
>実際、彼は年じゅう日本各地を回って講演をしている。
>その集まりは多く婦人層が対象となっている。
>彼の講演を聴いた人の感想によると、人生の機微をよく心得た話で、たとえば大学教授のような
>抽象的な高遠なそれと違い、きわめて具体的で合点がいくそうである。

皮肉を込めた「大学教授のような抽象的な高遠なそれと違い」とされた春田氏も、

結局「大学教授」の対局の評論家なのであろう。


2004年06月07日 記
作品分類 小説(短編) 22×600=13200
検索キーワード 教育評論家・講演・婦人雑誌・詐欺・三人組・弟
登場人物
春田 令吉 評論家(教育評論家・社会評論家)
羽沢 矢須子 25、6歳。評論家春田氏のファン?。実は大泥棒
杉浦 耕一 羽沢矢須子の弟を名乗る(たぶん矢須子の夫?)
川田 千一 羽沢矢須子の弟を名乗る

春田氏の講演