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松本清張_二冊の同じ本

NO_015

題名 二冊の同じ本
読み ニサツノオナジホン
原題/改題/副題/備考 【重複】〔(株)双葉社=失踪(双葉文庫)〕
本の題名 二冊の同じ本 日本推理小説協会編 最新ミステリー選集1〈愛憎編〉【蔵書No0020】
出版社 (株)光文社
本のサイズ 新書(KAPPANOVELS)
初版&購入版.年月日 1971/07/30●34版1977/09/30
価格 600
発表雑誌/発表場所 「週刊朝日カラー別冊[」
作品発表 年月日 1971年(昭和46年)1月
コードNo 19710100-00000000
書き出し 話は古書目録のことからはじまる。神田では毎年何回か古書店が共同して開く古本即売会がある。新聞にも取り上げられるくらい評判だが、その会が行われる二週間くらい前には、参加の古書店が顧客先に出品目録を送ってくる。私のところにも語林堂という店から毎回送ってくる。私も本は好きだ。ことに会社で閑な職務に就くようになってからは本を手にする時間が多い。会社は戦前から貿易業務を主体にしていたが、敗戦でいったん駄目になり、分割されたけど、現在は立ち直って繁昌している。私は海外駐在勤務が多かったせいで、外国の地誌など読むが、それだけとは限らない。よくいえば興味の広い方、まあ雑読である。さて送られてきた古書目録に眼を通していると、その中に「欧州殊にロシアに於ける東洋研究史ウエ・バルトリド著・外務省調査部訳」というのに視線が止まった。その下に、注として「書込あり」という活字がある。前の所有者が欄外に文字を書き込んでいるという断りがきである。バルトリドは、1869年ペテルブルグ(現在のレニングラード)に生まれ、東洋史、特に中央アジア、中近東の歴史について多くの論文を残しているロシア東洋学の重鎮である。
あらすじ感想 「欧州殊にロシアに於ける東洋研究史ウエ・バルトリド著・外務省調査部訳」『東洋研究史』という本が

狂言回しである。

本好きの「私」が、即売会の古書店の出品目録で『東洋研究史』に目を留める。

「私」は同じ本を持っている。その本は塩野氏から貰ったものである。

問題は出品目録にあった「書き込みあり」という活字である。

塩野氏から貰った本にも書き込みがある。

さらに問題なのは、書き込みの仕方である。五,六ページ続くかと思うと、次は十ページ以上は何も

書き込みがない。

「私」は、この本を手に入れる。この二冊は、塩野氏によって書き込みがされた本であった。

塩野泰治の養子である慶太郎から電話で『東洋研究史』を譲って欲しいとの依頼を受ける。

慶太郎に対するある感情から、「私」は即座に断る。

二冊の本に興味をもった私は、古書の出所を探す。

篠村博子が出所である。篠村博子は、塩野泰治の愛人であった。

篠村博子には、二人の関係をネタに、金をせびる、やくざな弟の存在があった。

事件は篠村博子の家で起きる。塩野泰治、篠村博子、博子のやくざな弟、従姉夫婦が居る。

従姉夫婦の亭主は、河合義男である。

事件は、塩野泰治が、金をせびる、やくざな弟を嚇となってアイロンを振り上げ弟の頭に振り下ろす。

弟が死んだのを見て、狼狽する泰治、博子。河合義男が身代わりに罪を引き受ける。

博子は、後に事件を苦に自殺する。出所した河合義男は、塩野泰治の養子になる。

資産家の泰治は河合義男を養子にしなければならなかった。妻の友子には異母兄弟ということにした。

河合義男は塩野慶太郎となったのである。

どんでん返しである。泰治の死後、養子の慶太郎夫婦と残された友子の関係は容易に想像できる。

資産を食いつぶす慶太郎、やがて友子の遺産を狙う。

何も知らないはずの友子は命を狙われる。知らないはずの友子すべてを知っていた。

それは、慶太郎が資産を食いつぶし、友子を狙うことまで知り尽くした上での計画を実行するのである。

亡き夫を脅迫して、夫婦で養子として乗り込んできた慶太郎に友子は報復する。

清張は、「私」の最後の思いを

「義男にはそれで済んでいるが、死んだ者には済まないままに終わっている。」としているが、

私は、その意味を計りかねてる。


2003年10月13日 記
作品分類 小説(短編) 25P×950=23750
検索キーワード 東洋研究史・古書店・書き込み・アイロン・シンガポール・遺産・養子・愛人・異母兄弟・古書目録
登場人物
塩野泰治は五つ年上。20代でシンガポールの支店にいたころ塩野と知り合う。
塩野 泰治 4年前に死亡。鉱山経営者。東京の西郊外に家を建て夫婦二人ですむ。子供なし。
塩野 友子 塩野泰治の妻。
塩野 慶太郎 本名、河合義男。塩野泰治の養子。篠村博子の従姉の亭主
篠村 博子 8年前に死亡。当時38歳、自殺。塩野泰治の愛人

二冊の同じ本