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松本清張_尊厳

No_119

題名 尊厳
読み ソンゲン
原題/改題/副題/備考 【重複】〔(株)文藝春秋=松本清張全集35〕
【重複】〔(株)光文社=松本清張 短編全集05(声)(光文社文庫)〕
本の題名 遠くからの声【蔵書No0007】
出版社 (株)講談社
本のサイズ 文庫(講談社文庫)
初版&購入版.年月日 1976/10/15●2版1976/12/15
価格 260
発表雑誌/発表場所 「小説公園」
作品発表 年月日 1955年(昭和30年)9月号
コードNo 19550900-00000000
書き出し 宮が御西下になると決まったのは、その年の夏であった。大正天皇のご病気平癒祈願のため、九州各地の神社へお成りになるのである。R県の知事は何度も上京し、内務省で殿下の日程と警戒方法とを打ち合わせた。よいよ決定となると、宮内庁に出頭して宮の御来県に対する御礼を言上した。R県は九州の、その頃の官制のしきたりでいえば二等県である。米の多産で知られる以外さしたる特徴がない。工業も文化も隣県に奪われていた。眠ったような貧弱な県である。それで今度のように宮をお迎えするとなると県は以上に生気づくのである。知事は帰任すると県庁の役員を集めて会議を開いた。宮は二日間の御滞在である。あれもこれも見て頂く。県下のスケジュールはぎっしりと詰まった。
あらすじ感想 「宮」のお成りを先導する役の多田警部は、極度の緊張から大失態を犯す。

彼は責任をとって自殺をする。

無念の死を遂げた多田警部の息子は、当事者である「宮」に復讐をする。

復讐をされる「宮」は、何も覚えていない。

「宮」の権威は、天皇制の絶対的権力を背景に想像を絶する緊張を多田警部に与えた。  

彼の緊張は現在にも通じる。

私には、滑稽にさえ映る失態は、極度の緊張をもたらした時代的背景も鋭くついている。

不幸な自殺を遂げた多田警部の息子は、「宮」を恨む。

復讐を遂げようとする息子貞一の恨みは、理不尽なものなのだろうか。

元「宮」の室町氏は何も知らない。

復讐は、される者に覚えがなければ、意味を成さない。

むなしい復讐劇は、没落した元「宮」の室町氏を描くことで救われている。

清張の天皇制に対する態度の片鱗が、うかがえる。


2001年01月31日 記
作品分類 小説(短編) 18P×650=11700
検索キーワード 宮・天皇制・自殺・没落・大正天皇・知事・宮内庁・九州・内務省
登場人物
多田警部 元宮の先導に失敗し自殺をする。
多田 貞一 多田警部の息子。無念の死を遂げた父の復讐を遂げる。
室町 元宮

尊厳